adhara’s blog

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Kustaanheimo-Stiefel 変換(その1)〜概要〜

いくつかの記事で水素原子やケプラー問題を四次元調和振動子の問題に変換するKustaanheimo-Stiefel (KS) 変換について紹介していく予定である。
第一弾である本記事では KS 変換の概要を紹介する。

KS変換の二次元版

二次元的なケプラー問題(運動面に限定した運動方程式を考える、の意)が調和振動子の問題に変換できることが1920年Levi-Civitaの論文により知られていた。
この変換はLevi-Civita変換*1と呼ばれる。
この変換のそもそもの動機はクーロンポテンシャルの持つ特異性、すなわち原点においてポテンシャルが負の方向に発散するという取り扱いにくさを解消するためであった。
Levi-Civita変換は正準変換と時間に関する変換を組み合わせたものである。

KS変換の登場

Levi-Civita変換が通常の三次元的なケプラー問題に拡張されたのは1965年のことである。
KustaanheimoとStiefel が行ったためにKustaanheimo-Stiefel (KS) 変換と呼ばれる。
KS変換によりケプラー問題は四次元空間における等方調和振動子の問題と結びつけられ、原点におけるポテンシャルの特異性が解消される。
Levi-Civita変換が問題を複素数平面の幾何学に結びつけているに対して、KS変換は四元数幾何学(四次元空間の超球面{S^3}幾何学)に結びつけている。

KS変換の発展と応用

KS 変換に関する論文はその後も多く書かれた。
そこで用いられる数学も様々である。
いずれの手法も、不可逆な変換により {\displaystyle R^3} 上の点を {\displaystyle R^4} 上の点に移し、調和振動子の方程式に書き換えるということでは共通している。
数理物理における研究だけではなく、クーロンポテンシャルの原点における特異性の処理を解消する特徴から、多体問題のシミュレーションにおいて実際に用いられることがある。

KS変換の量子力学ヴァージョン

KS変換には量子力学ヴァージョンがあり、こちらについても数理物理の観点から研究が盛んに行われた。
KS変換の量子力学的側面についてはKiblerらの1986年の論文についてそれまでの研究のまとめが詳しく書かれている。
この論文によればそれ以前のKS変換の量子力学の文脈での研究を分類し、

  1. Schrödinger方程式(偏微分方程式)の変数変換に関する研究
  2. Feynmanの経路積分表示に関する研究
  3. Weyl-Wigner-Moyal形式の表示に関する研究
  4. Jordan-Wignerのボソン化を利用した波動関数の表示に関する研究

の4種類を列挙している。
第一の「Schrödinger方程式(偏微分方程式)の変数変換に関する研究」は、その名の通り二階の偏微分方程式について変数変換を行うものである。
KS変換により確かに四次元空間中の調和振動子の問題に書き換えることができ、さらにこの方法によって出て来る波動関数は放物線座標表示とほぼ等価であることもわかる。
放物線座標表示については以前の記事で取り扱っている。
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第二の「Feynmanの経路積分表示に関する研究」は水素原子についてプロパゲータを計算する際にKS変換を用いる、というものである。これにより始めて経路積分からプロパゲータが計算できるようになった。

第三の「Weyl-Wigner-Moyal形式の表示に関する研究」は古典力学量子力学の結びつきをよく表す、Weyl-Wigner-Moyal形式の表示(位相空間表示)にKS変換を適用したものである。
この方法でもプロパゲータは計算することが可能である。

第四のJordan-Wingerのボソン化を利用した波動関数の表示は、四組のボソン生成消滅演算子をいくつか使って水素原子の波動関数を表す、というものである。
これを用いることにより、水素原子に潜む{so(4,2)}代数構造が見やすい形になる。
水素原子に潜む{so(4,2)}代数構造については以前の記事で取り扱っている。
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KS変換の現在

現在もKS変換に関する研究は行われている。(加筆予定

今後の記事について

古典力学ケプラー問題)、量子力学(水素原子の問題)それぞれについて、KS変換の適用例を紹介する予定である。
これらの記事に関連して水素原子における経路積分の計算や{so(4,2)}代数構造との関連についても解説記事を書く予定である。

リファレンス

人物

Levi-Civita 変換の元論文

Kustaanheimo-Stiefel 変換の元論文

古典力学におけるKS変換を四元数で書いたもの

Schrödinger方程式の変換について

Feynmanの経路積分表示に関して

Weyl-Wigner-Moyal形式の表示に関して

Jordan-WignerのBoson化を利用した波動関数の表示に関して

関連記事

*1:ブログポストBohlin変換の原論文・仏英翻訳 - t_phy’s diaryを読んで気づいたが、同様の変換をBohlin(1911) "Note sur le problème des deux corps et sur une intégration nouvelle dans le problème des trois corps"が導入していたとのことである。さらに遡るとGoursat(1889) "Les transformations isogonales en Mécanique."がある。Goursat-Bohlin-Levi-Civita変換などとするのが適しているかも知れない。その他http://sites.mathdoc.fr/cgi-bin/rbsm?cc=R__8_g*で見られる論文は運動方程式の変換に関するものであり、この変換に関連するものだと考えられる。(170910追記)

臨界減衰とジョルダン標準形

ノートを参照。

剛体球の自由回転運動のシュレディンガー方程式における力学的対称性

本記事では剛体球の自由回転運動のシュレディンガー方程式における力学的対称性について紹介する。

はじめに

水素原子の力学的対称性については、
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等で詳しく紹介してきた。
そこではハミルトニアンが元々の空間の対称性よりも大きな対称性を持っており、その結果高度なエネルギー縮退が生じることを見てきた。
このように考えている系の元々の対称性よりも大きな対称性は力学的対称性と呼ばれている。
実は剛体球の自由回転運動についても同様に力学的対称性が存在する。
このことを見ていきたい。

PDF形式で貼り付ける。


まとめと今後の展望

本記事では剛体球の自由回転運動についても水素原子同様に4次元空間の回転対称性が備わっていることを見た。
剛体球に関するこの対称性に関する解釈について記事の続編を作る予定である。


*リファレンス

cloudlatexとoverleafの比較

以前の記事でoverleafで行うLaTeXについて紹介した。
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ここではcloudlatexとoverleafについて簡単にまとめた(twitterを貼り付けるだけ)






超可積分入門(その1)

超可積分に関する入門記事第一弾である。

本記事は超可積分に関するレビューである
Miller Jr, W., Post, S., & Winternitz, P. (2013). Classical and quantum superintegrability with applications. Journal of Physics A: Mathematical and Theoretical, 46(42), 423001.
のイントロを簡略化したものである。

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