ラゲール多項式やラゲール陪多項式のプロット

ラゲール多項式やラゲール陪多項式をSageMath(jupyter notebookバージョン)でプロットしてみた。
これらの定義はリファレンスや関連記事に詳しい。

SageMathにおいてラゲール多項式自体はここにあるように定義されているのだが、あえて
合流型超幾何関数を用いて定義した。

170507_Laguerre functions.pdf - Google ドライブ


SageMathについて

SageMathは内部でLaTeXを使えるので、グラフ中に数式を書いたりするのに大変便利である。
SageMath の jupyter notebook バージョンはインタラクティブに操作できるので便利である。
SageMath では数式から LaTeX のコードを生成することが可能である。


リファレンス

エルミート多項式をラゲール関数で書く。

エルミート(Hermite)多項式をラゲール(Laguerre)関数で書き換える、ということを行う。

合流型超幾何関数を用いたラゲール関数の定義

この記事においてラゲール関数はラゲール陪多項式に出てくる指数を非整数に拡張したものを意味するものとする。
指数が非整数となるラゲール関数はもはや多項式にはならないので、以前紹介した母関数やロドリゲス表示によって定義することは叶わない。
定義としては第一種合流型超幾何関数(例えばこちらを参照)を採用するのが良いと考えられる。(上記のラゲールの陪微分方程式を満たすことが示される)
すなわち、

{
\begin{align}
L^k_n(x) = \frac{(k+1)_n}{n!} M(-n,k+1;x)
\end{align}
}

で定義される。(ここでは {n}自然数{k} は非整数でも良い。ただし {n} を非整数とするさらなる拡張も可能である。)
ここで第一種合流型超幾何関数は、

{
\begin{align}
M(a,b,x) = \sum_{l=0}^\infty \frac{(a)_l}{(b)_l} \frac{x^l}{l!}
\end{align}
}

で定義される。({ {}_1 F_1 (a;b;x) } と書くこともある。)
しばしば出てくるポッホハマー記号 { (a)_n} は特殊関数の文脈では

{
\begin{align}
(a)_n = \prod_{l=0}^{n-1}(a+l)=a\cdot(a+1)\cdots (a+n-1)
\end{align}
}

で定義される。(組み合わせ論の文脈では異なる定義となっているので注意。)

このとき、ラゲール関数はラゲールの陪微分方程式

{
\begin{align}
x\frac{d^2L_n^k}{dx^2}+(k+1-x)\frac{dL_n^k}{dx}+nL_n^k(x)=0
\end{align}
}

の解となっていることがわかる。

エルミート多項式の定義と諸性質

エルミート多項式をここでは母関数を用いて定義する。
すなわち、

{
\begin{align}
g(x,t) = e^{-t^2+2tx} = \sum_{n=0}^\infty H_n(x) \frac{t^n}{n!}
\end{align}
}

でエルミート多項式たち {H_n(x)} を定義する。

このとき、{g(x,t)}{n}{t} 微分して {t=0} を代入することにより、ロドリゲス表示

{
\begin{align}
H_n(x) = (-1)^{n}e^{x^2}\frac{d^n}{dx^n}e^{-x^2}
\end{align}
}

を得る。

また、{g(x,t)}{x} 微分することにより関係式

{
\begin{align}
H_{n}'(x) = 2nH_{n-1}(x)
\end{align}
}

を得る。

さらに、{g(x,t)}{t} 微分することにより関係式

{
\begin{align}
H_{n+1}(x) = -2nH_{n-1}(x) + 2xH_n(x)
\end{align}
}

を得る。

上の二つの関係式を合わせることにより、エルミートの微分方程式

{
\begin{align}
H_n''(x) - 2x H_n'(x) + 2n H_n(x) = 0
\end{align}
}

を得る。

エルミート多項式をラゲール関数で書く。

まず、{x\ge0} とする。
{x^2=t} の変数変換を行うと、{\frac{d}{dx} = 2t^{\frac12}\frac{d}{dt} }{\frac{d^2}{dx^2} = 2\frac{d}{dt} + 4t\frac{d^2}{dt^2} }となることから、エルミートの微分方程式

{
t \frac{d^2}{dt^2} H_n + \left( \frac12 - t \right) \frac{d}{dt}H_n + \frac{n}{2} H_n = 0
}

となる。

また、{ H_n(x) = xT_n(x^2) } と置いて同様に {x^2=t} の変数変換を行うと、

{
t \frac{d^2}{dt^2} T_n + \left( \frac32 - t \right) \frac{d}{dt}T_n + \frac{n-1}{2} T_n = 0
}

となる。

ラゲールの陪微分方程式と見比べると、偶数次のエルミート多項式については一つ目の変数変換微分方程式を参照することにより、

{
H_{2n}(x) \propto L^{-\frac12}_n (x^2)
}

となることがわかる。
奇数次のエルミート多項式については二つ目の変数変換微分方程式を参照することにより、

{
H_{2n+1}(x) \propto xL^{\frac12}_n (x^2)
}

となることがわかる。
エルミート多項式の偶奇性より、{x\ge0} でも同じ表式であることがわかる。

エルミート多項式の第一種合流型超幾何関数による表示

ラゲール陪多項式の第一種合流型超幾何関数による表示と見比べることで、エルミート多項式も第一種合流型超幾何関数を用いて表示することができる

偶数次については

{
H_{2n}(x) = (-1)^n \frac{(2n)!}{n!} M\left(-n,\frac12 ,x^2\right)
}

となり、奇数次については

{
H_{2n+1}(x) = (-1)^n \frac{2(2n+1)!}{n!} x\ M\left(-n,\frac32 ,x^2\right)
}

となる。

Kustaanheimo-Stiefel 変換(その3)〜非相対論的水素原子Schrödinger方程式を解く〜

いくつかの記事で水素原子やケプラー問題を四次元調和振動子の問題に変換するKustaanheimo-Stiefel (KS) 変換について紹介していく予定である。
第三弾である本記事ではKS変換によって導出された固有方程式を実際に解く、ということを行う。

はじめに

本記事では非相対論的水素原子のSchrödinger方程式をKustaanheimo-Stiefel変換によって四次元空間中の調和振動子量子力学的問題に書き換えた方程式を実際に解く。本記事を書くにあたりCornish, F. H. J. (1984)を参考にしている。

ノート

ノートの構成は

  1. 前ノートのおさらい
  2. 変数分離の実行
  3. 二階微分方程式の解法
  4. 波動関数とエネルギー

となっている。
以下にノートを貼り付ける。
KS変換(その3).pdf - Google ドライブ


まとめと今後の展望

本記事では非相対論的水素原子のSchrödinger方程式をKustaanheimo-Stiefel変換によって四次元空間中の調和振動子量子力学的問題に書き換えた方程式を実際に解く、ということを行った。
波動関数の表示が放物線座標表示の解と等価であることがわかった。
続く記事では1)KS変換におけるLRLベクトルの役割、2)ボソン消滅演算子を用いた表示との関係性、を紹介したいと考えている。

リファレンス

Levi-Civita 変換の元論文

Kustaanheimo-Stiefel 変換の元論文

古典力学におけるKS変換を四元数で書いたもの

Schrödinger方程式の変換について

Feynmanの経路積分表示に関して

Weyl-Wigner-Moyal形式の表示に関して

Jordan-WignerのBoson化を利用した波動関数の表示に関して

Kustaanheimo-Stiefel 変換(その2)〜非相対論的水素原子Schrödinger方程式の書き換え〜

いくつかの記事で水素原子やケプラー問題を四次元調和振動子の問題に変換するKustaanheimo-Stiefel (KS) 変換について紹介していく予定である。
第二弾である本記事では非相対論的水素原子のSchrödinger方程式をKS変換により書き換えるということを行う。

はじめに

本記事では非相対論的水素原子のSchrödinger方程式をKustaanheimo-Stiefel変換によって四次元空間中の調和振動子量子力学的問題に書き換える、ということを行う。本記事を書くにあたりCornish, F. H. J. (1984)を参考にしている。

ノート

ノートの構成は

  1. 問題設定
  2. Kustaanheimo-Stiefel 変換の準備
  3. Schrödinger 方程式に対するKustaanheimo-Stiefel 変換の適用
  4. 四次元空間中の調和振動子の問題への変換

となっている。
以下にノートを貼り付ける。
KS変換(その2).pdf - Google ドライブ


まとめと今後の展望

本記事では非相対論的水素原子のSchrödinger方程式をKustaanheimo-Stiefel変換によって四次元空間中の調和振動子量子力学的問題に書き換える、ということを行った。
KS変換により確かに四次元空間中の調和振動子量子力学的問題に書き換わったが、角運動量に関する拘束条件が課せられることもわかった。
次の記事ではこの変換後のSchrödinger方程式を解くことで、エネルギーと波動関数を求める。
そしてこの波動関数の表示が放物線座標表示の解と等価であることを示す。

リファレンス

Levi-Civita 変換の元論文

Kustaanheimo-Stiefel 変換の元論文

古典力学におけるKS変換を四元数で書いたもの

Schrödinger方程式の変換について

Feynmanの経路積分表示に関して

Weyl-Wigner-Moyal形式の表示に関して

Jordan-WignerのBoson化を利用した波動関数の表示に関して

Kustaanheimo-Stiefel 変換(その1)〜概要〜

いくつかの記事で水素原子やケプラー問題を四次元調和振動子の問題に変換するKustaanheimo-Stiefel (KS) 変換について紹介していく予定である。
第一弾である本記事では KS 変換の概要を紹介する。

KS変換の二次元版

二次元的なケプラー問題(運動面に限定した運動方程式を考える、の意)が調和振動子の問題に変換できることが1920年Levi-Civitaの論文により知られていた。
この変換はLevi-Civita変換*1と呼ばれる。
この変換のそもそもの動機はクーロンポテンシャルの持つ特異性、すなわち原点においてポテンシャルが負の方向に発散するという取り扱いにくさを解消するためであった。
Levi-Civita変換は正準変換と時間に関する変換を組み合わせたものである。

KS変換の登場

Levi-Civita変換が通常の三次元的なケプラー問題に拡張されたのは1965年のことである。
KustaanheimoとStiefel が行ったためにKustaanheimo-Stiefel (KS) 変換と呼ばれる。
KS変換によりケプラー問題は四次元空間における等方調和振動子の問題と結びつけられ、原点におけるポテンシャルの特異性が解消される。
Levi-Civita変換が問題を複素数平面の幾何学に結びつけているに対して、KS変換は四元数幾何学(四次元空間の超球面{S^3}幾何学)に結びつけている。

KS変換の発展と応用

KS 変換に関する論文はその後も多く書かれた。
そこで用いられる数学も様々である。
いずれの手法も、不可逆な変換により {\displaystyle R^3} 上の点を {\displaystyle R^4} 上の点に移し、調和振動子の方程式に書き換えるということでは共通している。
数理物理における研究だけではなく、クーロンポテンシャルの原点における特異性の処理を解消する特徴から、多体問題のシミュレーションにおいて実際に用いられることがある。

KS変換の量子力学ヴァージョン

KS変換には量子力学ヴァージョンがあり、こちらについても数理物理の観点から研究が盛んに行われた。
KS変換の量子力学的側面についてはKiblerらの1986年の論文についてそれまでの研究のまとめが詳しく書かれている。
この論文によればそれ以前のKS変換の量子力学の文脈での研究を分類し、

  1. Schrödinger方程式(偏微分方程式)の変数変換に関する研究
  2. Feynmanの経路積分表示に関する研究
  3. Weyl-Wigner-Moyal形式の表示に関する研究
  4. Jordan-Wignerのボソン化を利用した波動関数の表示に関する研究

の4種類を列挙している。
第一の「Schrödinger方程式(偏微分方程式)の変数変換に関する研究」は、その名の通り二階の偏微分方程式について変数変換を行うものである。
KS変換により確かに四次元空間中の調和振動子の問題に書き換えることができ、さらにこの方法によって出て来る波動関数は放物線座標表示とほぼ等価であることもわかる。
放物線座標表示については以前の記事で取り扱っている。
adhara.hatenadiary.jp
adhara.hatenadiary.jp


第二の「Feynmanの経路積分表示に関する研究」は水素原子についてプロパゲータを計算する際にKS変換を用いる、というものである。これにより始めて経路積分からプロパゲータが計算できるようになった。

第三の「Weyl-Wigner-Moyal形式の表示に関する研究」は古典力学量子力学の結びつきをよく表す、Weyl-Wigner-Moyal形式の表示(位相空間表示)にKS変換を適用したものである。
この方法でもプロパゲータは計算することが可能である。

第四のJordan-Wingerのボソン化を利用した波動関数の表示は、四組のボソン生成消滅演算子をいくつか使って水素原子の波動関数を表す、というものである。
これを用いることにより、水素原子に潜む{so(4,2)}代数構造が見やすい形になる。
水素原子に潜む{so(4,2)}代数構造については以前の記事で取り扱っている。
adhara.hatenadiary.jp

KS変換の現在

現在もKS変換に関する研究は行われている。(加筆予定

今後の記事について

古典力学ケプラー問題)、量子力学(水素原子の問題)それぞれについて、KS変換の適用例を紹介する予定である。
これらの記事に関連して水素原子における経路積分の計算や{so(4,2)}代数構造との関連についても解説記事を書く予定である。

リファレンス

人物

Levi-Civita 変換の元論文

Kustaanheimo-Stiefel 変換の元論文

古典力学におけるKS変換を四元数で書いたもの

Schrödinger方程式の変換について

Feynmanの経路積分表示に関して

Weyl-Wigner-Moyal形式の表示に関して

Jordan-WignerのBoson化を利用した波動関数の表示に関して

関連記事

*1:ブログポストBohlin変換の原論文・仏英翻訳 - t_phy’s diaryを読んで気づいたが、同様の変換をBohlin(1911) "Note sur le problème des deux corps et sur une intégration nouvelle dans le problème des trois corps"が導入していたとのことである。さらに遡るとGoursat(1889) "Les transformations isogonales en Mécanique."がある。Goursat-Bohlin-Levi-Civita変換などとするのが適しているかも知れない。その他http://sites.mathdoc.fr/cgi-bin/rbsm?cc=R__8_g*で見られる論文は運動方程式の変換に関するものであり、この変換に関連するものだと考えられる。(170910追記)

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