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adhara’s blog

数理物理に関する記事を書きます。 https://twitter.com/adhara_mathphys

ケプラー問題と力学的対称性(その3)~ 束縛状態のso(4)リー代数 〜

いくつかの記事を使って古典力学における力学的対称性について論じるつもりである。

ケプラー問題における力学的対称性に関する記事の第三弾である本記事では、ケプラー問題の束縛状態に付随するリー代数について論じる。
前に、量子力学版LRLベクトルの記事Pauliの解法で示したように水素原子の縮退した束縛状態は、{\textstyle so(4) }代数の既約表現として理解できる。
実は、古典力学ケプラー問題でも同様なリー代数が存在している。
今回では、水素原子のときと同様にエネルギー負の束縛状態を考え、{\textstyle so(4) }代数を構成できることを示す。

本記事の構成は

  1. 第一弾の復習(ケプラー問題の保存量)
  2. 第二弾の復習(角運動量ベクトルとLRLベクトル各成分間のポアソンブラケット演算)
  3. {\textstyle so(n) }代数の導入
  4. {\textstyle so(n) }代数のブラケット演算
  5. 束縛状態におけるso(4)リー代数

のようになっている。

第一弾の復習(ケプラー問題の保存量)

第一弾ではケプラー問題における運動の第一積分、すなわち保存量について論じた。
すなわちケプラー問題のハミルトニアン


\begin{eqnarray}
H(\boldsymbol{r},\boldsymbol{p}) =\frac{\boldsymbol{p}^2}{2m} - \frac \kappa r 
\end{eqnarray}

に対して、角運動量ベクトルを


\begin{eqnarray}
\boldsymbol{L} = \boldsymbol{r} \times \boldsymbol{p}
\end{eqnarray}

、LRLベクトルを

 
\begin{eqnarray}
\boldsymbol{M} = \frac{1}{m} \boldsymbol{p} \times \boldsymbol{L}  - \frac{\kappa\boldsymbol{r}}{r}
\end{eqnarray}

で定義すると、


\begin{eqnarray}
\frac{dL_i}{dt} &=&
 \left\{ L_i, H \right\} 
 = 0\\
\frac{dM_i}{dt} &=&
 \left\{ M_i, H \right\} 
 = 0
\end{eqnarray}

となりそれぞれのベクトルが保存されることを見た。

第二弾の復習(角運動量ベクトルとLRLベクトル各成分間のポアソンブラケット演算)

第二弾では角運動量ベクトルとLRLベクトル(Laplace-Runge-Lenzベクトル)の各成分のポアソンブラケット演算を計算した。
すなわち、


\begin{eqnarray}
\{ L_i , L_j \} &=& \sum_{k} \epsilon_{ijk} L_k \\
\{ M_i, M_j \} &=&   -\frac{2H}{m}\sum_{k} \epsilon_{ijk} L_k \\
\{ L_i, M_j \} &=& \sum_k \epsilon_{ijk} M_k
\end{eqnarray}

であることを見た。

{\textstyle so(n) }代数とは

{\textstyle so(n) }代数は、n次元ベクトル空間の狭義回転群{\textstyle SO(n)}の生成元が成すリー代数である。

{\textstyle x_i x_j }平面({\textstyle i\neq j })に関する回転の生成元は


\begin{eqnarray}
L_{ij}= x_i \frac{\partial }{\partial x_j } - x_j \frac{\partial }{\partial x_i}
\end{eqnarray}

のように表される。
すなわち、生成元から生成される指数演算子の集まりは


\begin{eqnarray}
\left\{ e^{\theta L_{ij}} | \theta \in \boldsymbol{R} \right\}
\end{eqnarray}

となり、{\textstyle x_i x_j }平面に関する回転群を成す。
実際に、ベクトルに対して演算子を作用させると


\begin{eqnarray}
e^{\theta L_{ij}} \begin{pmatrix} x_i \\ x_j\end{pmatrix}
&=&
\sum_{n=0}^\infty \frac{\theta^n L_{ij}^n}{n!} 
 \begin{pmatrix} x_i \\ x_j\end{pmatrix} \\
&=&
 \begin{pmatrix} x_i\cos\theta - x_j \sin\theta \\ x_i \sin\theta + x_j \cos\theta\end{pmatrix} \\
&=&
\begin{pmatrix}  \cos\theta & -\sin\theta \\ \sin\theta & \cos\theta \end{pmatrix}
 \begin{pmatrix} x_i \\ x_j\end{pmatrix} \\
\end{eqnarray}

となり、回転行列を作用させることと同等の働きをする。
これが(部分)回転群の線形表現である。
途中で、


\begin{eqnarray}
L_{ij} x_i = -x_j,\ L_{ij} x_j = x_i
\end{eqnarray}

を用いた。
 {\textstyle so(n)}代数の生成元から作られる指数演算子により、{\textstyle SO(n)}群が構成される。
すなわち、


\begin{eqnarray}
SO(n) = \left\{ \exp\left(  \sum_{i < j } \theta_{ij} L_{ij} \right)  \Bigg| \theta_{ij}\in \boldsymbol{R} ,\  \right\}
\end{eqnarray}

となっている。

{\textstyle so(n) }代数のブラケット演算

リー代数においてはブラケット演算が定義されるが、上記の {\textstyle so(n)}代数に対しては、交換関係で定義する。
このとき生成元間のブラケット演算の結果は、


\begin{eqnarray}
\left[ L_{ij} , L_{kl} \right] 
&=&
L_{ij}L_{kl} - L_{kl}L_{ij} \\
&=& 
 \delta_{jk} L_{il} - \delta_{ik} L_{jl}-\delta_{jl} L_{ik} + \delta_{il} L_{jk}
\end{eqnarray}

となる。
とくに{\textstyle so(4) }代数では、

 
\begin{eqnarray}
\left[ L_{32} , L_{13} \right] &=&  L_{21} \\
\left[ L_{14} , L_{24} \right] &=&  L_{21} \\
\left[ L_{32} , L_{24} \right] &=&  L_{34} 
\end{eqnarray}

等が成立する。

束縛状態におけるso(4)リー代数

{\textstyle H<0 }を固定し、(この時点で考える位相空間をエネルギー一定の超平面に制限したことになる。量子力学のときと似た状況)


\begin{eqnarray}
\boldsymbol{\tilde M} = \sqrt{\frac{m}{-2H}} \boldsymbol{M}
\end{eqnarray}

とすれば、


\begin{eqnarray}
\{ L_i , L_j \} &=& \sum_{k} \epsilon_{ijk} L_k \\
\{ \tilde M_i, \tilde M_j \} &=&\sum_k\epsilon_{ijk} L_k \\
\{ L_i, \tilde M_j \} &=& \sum_k \epsilon_{ijk} \tilde M_k
\end{eqnarray}

となる。

ここで、

\begin{eqnarray}
&& L_1\rightarrow L_{32} ,\ L_2\rightarrow L_{13} ,\ L_3\rightarrow L_{21} \\ 
&& \tilde M_1\rightarrow L_{14} ,\ \tilde M_2\rightarrow L_{24} ,\ \tilde M_3\rightarrow L_{34} \\ 
\end{eqnarray}

という置き換えをし、ポアソンブラケット演算を交換関係演算に置き換えると、{\textstyle so(4)}代数と同じブラケット演算となっていることが分かる。
すなわち、両代数はリー代数同型である。
したがって、束縛状態について角運動量ベクトルとLRLベクトルを規格化したものは{\textstyle so(4)}代数を成す。

まとめと今後の展望

本記事ではケプラー問題の束縛状態において{\textstyle so(4)}リー代数を構成できることを示した。
次の記事ではケプラー問題において束縛状態が閉じた軌道を成す理屈をハミルトニアン解析力学の知見を用いて分析する。
直接は{\textstyle so(4)}代数は出てこないが別のリー代数(シンプレクテック群を生成する)が
重要となる。
今回の{\textstyle so(4)}代数についても展開をしていく予定である。

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