ケプラー問題と力学的対称性(その3)~ 束縛状態のso(4)リー代数 〜
いくつかの記事を使って古典力学における力学的対称性について論じるつもりである。
ケプラー問題における力学的対称性に関する記事の第三弾である本記事では、ケプラー問題の束縛状態に付随するリー代数について論じる。
前に、量子力学版LRLベクトルの記事やPauliの解法で示したように水素原子の縮退した束縛状態は、代数の既約表現として理解できる。
実は、古典力学のケプラー問題でも同様なリー代数が存在している。
今回では、水素原子のときと同様にエネルギー負の束縛状態を考え、代数を構成できることを示す。
本記事の構成は
のようになっている。
第一弾の復習(ケプラー問題の保存量)
第一弾ではケプラー問題における運動の第一積分、すなわち保存量について論じた。
すなわちケプラー問題のハミルトニアン、
に対して、角運動量ベクトルを
、LRLベクトルを
で定義すると、
となりそれぞれのベクトルが保存されることを見た。
第二弾の復習(角運動量ベクトルとLRLベクトル各成分間のポアソンブラケット演算)
第二弾では角運動量ベクトルとLRLベクトル(Laplace-Runge-Lenzベクトル)の各成分のポアソンブラケット演算を計算した。
すなわち、
であることを見た。
代数とは
代数は、n次元ベクトル空間の狭義回転群の生成元が成すリー代数である。
平面()に関する回転の生成元は
のように表される。
すなわち、生成元から生成される指数演算子の集まりは
となり、平面に関する回転群を成す。
実際に、ベクトルに対して演算子を作用させると
となり、回転行列を作用させることと同等の働きをする。
これが(部分)回転群の線形表現である。
途中で、
を用いた。
代数の生成元から作られる指数演算子により、群が構成される。
すなわち、
となっている。
束縛状態におけるso(4)リー代数
を固定し、(この時点で考える位相空間をエネルギー一定の超平面に制限したことになる。量子力学のときと似た状況)
とすれば、
となる。
ここで、
という置き換えをし、ポアソンブラケット演算を交換関係演算に置き換えると、代数と同じブラケット演算となっていることが分かる。
すなわち、両代数はリー代数同型である。
したがって、束縛状態について角運動量ベクトルとLRLベクトルを規格化したものは代数を成す。
まとめと今後の展望
本記事ではケプラー問題の束縛状態においてリー代数を構成できることを示した。
次の記事ではケプラー問題において束縛状態が閉じた軌道を成す理屈をハミルトニアン解析力学の知見を用いて分析する。
直接は代数は出てこないが別のリー代数(シンプレクテック群を生成する)が
重要となる。
今回の代数についても展開をしていく予定である。
リファレンス
- Fradkin, DM: "Existence of the Dynamic Symmetries O4 and SU3 for All Classical Central Potential Problems". Progress of Theoretical Physics 37, 798 (1967). Existence of the Dynamic Symmetries O4 and SU3 for All Classical Central Potential Problems
- Laplace–Runge–Lenz vector - Wikipedia, the free encyclopedia
- CiNii 論文 - ラプラス-ルンゲ-レンツベクトル--Gruppen Pestの始祖的例題 (特集 代数的物理観--現代物理はいかに表現されているか)
- http://www.amazon.co.jp/Lie-Groups-Physics-Geometry-Introduction/dp/0521884004
- B. G. Wybourne, "Continuous Symmeties in Physics" http://www.fizyka.umk.pl/~bgw/symc.pdf
- Rev. Mod. Phys. 38, 330 (1966) - Group Theory and the Hydrogen Atom (I)
- archive.org
- L. I. Schiff: "Quantum Mechanics" 3rd edition (1968), McGraw-Hill, INC. Amazon CAPTCHA