adhara’s blog

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【ノーベル賞関連】Berezinskii-Kosterlitz-Thouless 転移について

2016年のノーベル物理学賞は、J. M. Thouless, D. J. Kosterlitz, F. D. M. Haldane の三人が受賞した。
「物質のトポロジカル相とトポロジカル相転移の理論的発見」が受賞理由となっている。
近年、物質中におけるトポロジカル相の発現というものが盛んに研究されており、その先駆者としてこの3人に贈られたようである。
トポロジカル相というものは様々なエキゾチックな量子力学的な状態を総称したものである。
たとえば量子ホール効果を示す量子ホール状態、表面にのみトポロジカルに保護された伝導状態をもち内部が絶縁体となっているトポロジカル絶縁体、等が有名なトポロジカル相を発現している物質である。
これらのトポロジカル相はそれなりに安定に存在できるのだが、安定性の原因がトポロジーに起因する、というところに共通の特徴がある。

本記事では、ThoulessとKosterlitzの受賞理由の一つとなった、Berezinskii-Kosterlitz-Thouless転移という相転移現象について解説する。
BerezinskiiはKosterlitz-Thoulessの論文以前に同様の相転移を研究していた。
ただし、有限温度(0でない温度の意)での転移を初めて説明したのはKosterlitz-Thoulessの方だということである。

XY模型

彼らが考えたモデルは二次元古典スピンXY模型(以下、XY模型)である。
XY模型は二次元面内で回転できるスピンが相互作用するモデルであり、例えば二次元超伝導超流動や二次元磁性系の研究に用いられる。
ハミルトニアンは、

{\displaystyle
H = - J\sum_{\langle i,j\rangle} \vec S_i \cdot \vec S_j
}

のように表される。ここでスピンの大きさは1と考え、相互作用は内積で与えられるものとする。

{\displaystyle
J > 0
}

の時は強磁性であること、すなわち相互作用する(ここでは隣接する)スピン同士が同じ向きに揃う傾向があることを表す。(逆符号は反強磁性体)
従って温度ゼロではすべてのスピンが同じ向きになったときがもっともエネルギーが低い状態となる。

一方、有限温度では周りの環境(熱浴)とスピン系は相互作用をしてエネルギーを授受している。
熱浴は巨大な自由度を持っており、その結果スピン系のエネルギーはカノニカル分布という統計分布にしたがって揺らぐことが知られている。(平衡統計力学)
カノニカル分布によればあるスピンの配置(各スピンの向きを変数とする多変数関数と解釈できる)が実現する確率は

{\displaystyle
P(\{S_i\}) \propto  \exp(-H (\{S_i\})/T)
}

となる。

このように、有限温度では状態は確率的に定まり、スピンの向きは勿論のこと、エネルギーや比熱等のマクロな観測量は揺らぐことになる。
従って決定論的にモデルの持つ性質を探索するということはできない。
その代わりに、確率的にどのような状態が実現しているのかを探索することが可能である。
確率的な事象を調べるのに有効な手段はMonte Carlo法(モンテカルロ法)である。
(有限サイズスケーリングの問題があり、実はMonte Carlo法でBKT転移の臨界現象を再現することは難しい。
しかしながらトポロジカル相転移の振る舞いを理解する上では有効な手法であると考えられる。
Kosterlitz-Thoulessはくりこみ群を用いて結果を出している。)

Monte Carlo法によるシミュレーション

シミュレーション結果

以下にMonte Carlo法によるシミュレーション結果をお見せする。(手法についてはここでは説明しない。プログラムは自作のものを用いている)
各色はその位置にあるスピンの向きを表示している。

高温状態
f:id:ito-yuto:20161006045952p:plain
色が全く揃っておらず、スピンの向きが無秩序となっていることが見て取れる。
当然、磁化(全スピンベクトルの平均値)はゼロとなる。

低温状態
f:id:ito-yuto:20161006050023p:plain
局所的には同じ色の領域が拡大し、スピンが局所的に秩序を形成していることがわかる。
しかしながら全体としては揃っておらず、磁化(全スピンベクトルの平均値)は(配置平均をとった結果)ゼロとなる。(二次元XY模型では長距離秩序=磁化がゼロにならない、が有限温度で発現しないことが数学的手法により示されている。Mermin-Wagnerの定理と呼ばれる。)
このように局所的に秩序がある状態を準長距離秩序という。
そして着目すべき点は、ところどころで色が一周して変化する場所があることである。
このような場所の周りでぐるりとスピンの角度の変化を眺めると、スピンの向きが回転していることがわかる。
これは渦が形成されていることを示す。
そして、渦の近くには必ずもう一つの渦が存在し、逆周りの渦(色の変化が反対)となっていることがわかる。
実は、渦がペアで生じる、というところにトポロジーの概念が適用されるのである。

トポロジカル相転移

Kosterlitz-Thoulessの成果は有限温度において相転移が生じることを示したことである。
すなわち上記にシミュレーションは低温と高温では単にスピンのバラバラ具合が変化しただけではなく、マクロな状態として大きな違いがあるということである。
それを示すためにはマクロな物理量の飛びを示さなくてはいけないが、シミュレーション結果からもトポロジーの概念を用いて理解できる。

高温状態の特徴は色がいたるどころで無秩序に変化することである。
すなわち、渦がいたるところで存在するのが高温状態である。
そして最大の特徴が渦がペアでできておらず、同じ向きの渦が近くにある状態が実現されている、ということである。
一方、低温時には渦が必ずペアで存在し、一つの渦の近くに反対向きの渦が存在する。

今異なる向きの渦のペアが一つだけある状態を考えよう。
f:id:ito-yuto:20161010125203j:plain
このとき、渦を近づけて行って連続的にスピンの配向を少しづつ揃えていくと、すべてのスピンが揃い渦のない状態を実現できる。
連続変化により渦のない状態と反対向きの渦のペアが一つある状態を接続でき、これをもって両状態のトポロジーが同じ、と表現する。
一方で同じ向きの渦が二つ存在する場合は、連続変形では渦なしの状態にできない。
従って、同じ向きの渦が二つ存在する状態と渦がない状態はトポロジカルに異なる、と表現される。
因みに反対向きのペアが一つ、二つ、と増えても連続変形により接続し、トポロジカルに同じと言える。
この辺りは後で図を拡充予定
Kosterlitz-Thoulessが示したことは、高温時と低温時では渦の状態に違いがあり、スピン配向の連続変形によって両者を接続できない、すなわちトポロジカルに異なることである。
低温時は渦なしの状態とトポロジカルに同じなのだが、高温時は違う、ということを示したのである。
このようなトポロジーが異なる状態間の相転移現象、すなわちトポロジカル相転移を発見したことが今回のKosterlitz-Thoulessノーベル賞受賞に繋がったのである。

シミュレーションソフトウェアについて

自作のソフトウェアを用いた。
プログラムはこちら
を押すとXY模型.appというのが出てくるのでこれをダウンロードしてXY模型.appをクリックすれば動く。
動作条件はMacOSの10.6以降10.12まで(の筈)。
ただし動かない場合は、XY模型.app/Contents/MacOS/XY模型 という内部プログラムの実行権限を得ること。(chmod 777 など)
動いても画面の更新が不安定な場合はT/Jのテキストボックスをクリックしてキーボードの右矢印を何回か押してみること。
全く動かなかったらごめんなさい。
万が一このプログラムを使用したことで起きた損害があっても保証は致しません。


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