adhara’s blog

数理物理に関する記事を書きます。 https://twitter.com/adhara_mathphys

spheroconical(円錐)座標による Laplace 方程式の変数分離と Lamé の微分方程式の導出

以前の記事

adhara.hatenadiary.jp

では spheroconical(円錐)座標について紹介した。

本記事では spheroconical 座標を用いて三次元 Laplace 方程式の変数分離を行い、Lamé の微分方程式の導出を行う。

以下、ノートを参照のこと。

参考文献

円錐(spheroconical)座標の導入

以前の記事
adhara.hatenadiary.jp
では三次元Laplace方程式を変数分離する11個の座標系を紹介した。

その中の一つである円錐(spheroconical)座標は球座標系と同様に三次元回転対称性を持つ座標系であるが、ややマイナーな座標系である。
そのせいか座標系の名前の表記揺れが激しい。

と呼ばれている。

以下、ノートを参照のこと。

三次元 Helmholtz 方程式を変数分離することができる11種の直交座標系の紹介

Helmholtz 方程式波動方程式*1を時間部分と空間部分に変数分離して解く時の、空間部分の方程式である。したがって物理の問題としては波動現象を考える時に出てくることが多い。

一方で、Helmholtz 方程式については多様な変数分離可能性(Multiseparability)があることが知られている。多様な変数分離可能性は、数学的には特殊関数間の繋がりが見られる点で面白い現象である。すなわち、各座標系を使って調和関数を変数分離表示する際に何らかの特殊関数が用いられるが、座標系間でそれらを比較することにより一見非自明な恒等式が誘導できる可能性がある。

数理物理の文脈では、Helmholtz 方程式以外にも Hamilton-Jacobi 方程式や Schroedinger 方程式に対して多様な変数分離可能性を考えることがある。*2このような場合は多様な変数分離可能性は「超可積分性(Superintegrability)」と関係してくる。超可積分はLiouville可積分の特殊な場合であり、独立な運動の積分の数が通常の Liouville 可積分の数(自由度の数)よりも多い状態を指す。特に独立な運動の積分の数が自由度の数の二倍より一つ少ない数になるときは「最大超可積分系(Maximally superintegrable systems)」と呼ばれ、古典系の場合は束縛軌道が必ず閉軌道になることが知られている。最大超可積分系の古くから知られる例は古典力学では Kepler 問題や等方調和振動子の問題、量子力学では水素原子や量子等方調和振動子の問題である。超可積分系においては多様な変数分離が可能であることが知られている。

Helmholtz 方程式はその簡潔な表記のためか特に多くの座標系で変数分離可能である。例えば三次元 Helmholtz 方程式を変数分離することができる直交座標系は次の11種類であることが Eisenhart(1934)*3 によって示されている。

それぞれリンク先は全てWikipediaの記事である。本記事では多様な変数分離可能性を考える準備としてこれらの座標系について概要を紹介する。本記事を書くにあたり Boyer, et al. (1976) *4を参考にしている。

Helmholtz 方程式の特別な場合である Laplace 方程式についてコメントする。Helmholtz方程式で固有値が0の時に Laplace 方程式に帰着する。物理の問題としては一様媒質中の静電ポテンシャルや拡散方程式の定常解を求める際に出てくる。Laplace方程式の解は調和関数と呼ばれている。Laplace 方程式を変数分離する場合も上記の11種の直交座標は有効であるが、Laplace 方程式の対称性は Helmholtz 方程式の対称性より広い*5ことからより多くの直交座標系で変数分離可能である。*6

カーテシアン座標系

カーテシアン座標系はユークリッド空間において直交する3軸に付随する座標であり最も汎用性がある。

円筒○○座標系

円筒(cylindrical)がつく座標系は、二次元平面における直交座標系に対して面に直交する軸由来の座標を加えたものである。これらは二次元座標系の平易な拡張であり、加えた軸に関して何らかの対称性がある問題については有効である(軸方向に伝搬する波動方程式など)。

球座標系

三次元性がより重要になるのはその他の座標系である。中でも、球座標は三次元回転対称性のある問題、あるいはその対称性を持つ系からの摂動を考える際に有効性を発揮するものである。Helmholtz 方程式を球座標系を変数分離した際に出てくる調和関数の角度部分は「球面調和関数」*7と呼ばれるものである。球座標系はデカルト座標系についでよく使われる三次元の直交座標系であろう。

放物線座標系

球座標系と同じく三次元性が重要な座標系として放物線座標がある。球座標系と比較するとややマイナーではあるが自然科学で使われることがある座標系である。特に水素原子の Schroedinger 方程式を考える際には Laplace-Runge-Lenz ベクトルの働きを見やすくする座標系として重要である。

二つの回転楕円体座標系

球として近似することが多い物体でも自転の効果などのために実際は軸方向に少し潰れたり逆に伸びたりする場合がある。例えば地球もそうである。このような時に球座標系からの摂動を考える場合でもよく現象を記述できるかもしれないが、より解析的に優れた表現を得るためにはその形状を捉えることができる回転楕円体座標系を用いることがある。軸方向に潰れた場合は扁平回転楕円体座標(oblate spheroidal coordinates)と呼ばれ、伸びた場合は偏長回転楕円体座標(prolate spheroidal coordinates)と呼ばれる。

また、偏長回転楕円体座標については水素原子や水素分子モノカチオンを考える時に使うことがある。これはその古典力学アナログである問題について楕円軌道が出てくることに由来する。これらの座標系の特徴として回転楕円体の潰れ具合や伸び具合を指定するパラメータ(離心率に相当)が座標とは別に存在することが挙げられる。パラメータの自由度だけ無数に座標系を考えることができるのである。(円筒楕円座標系も同様であるが。)

円錐座標系

円錐座標は実は球座標系と同様に三次元回転対称性を持つ座標系である。すなわちこの座標系は動径 {r} を含む。したがって、円錐座標系を用いて Laplace 方程式を変数分離した際も球座標系同様に球面調和関数が出てくる。ただし、球面調和関数あるいは {S^2}Laplace-Beltrami 作用素の変数分離は球座標系とは異なる。球座標系では球面調和関数の変数分離によって超幾何微分方程式の一種である Legendre 陪微分方程式が出てくるが、円錐座標では Heun 微分方程式の一種である Lame 微分方程式が出てくる。この球面調和関数は特に spherical elliptic harmonics と呼ばれることがある。(球座標表示の場合は spherical polar harmonics)*8

ところで円錐座標系はとてもマイナーではあるが案外広い分野・時代で使われるが故に、非常な表記揺れが生じている。これについては円錐座標系に関する記事を書いた時に紹介したい。

共焦点楕円体座標系

共焦点楕円体座標系についても円錐座標系同様に、Laplace 方程式を変数分離した時に Lame 微分方程式が出てくる。特に調和関数はこの変数分離によって Lame 微分方程式の解である Lame 関数3つの積として書くことができる。この場合の調和関数は ellipsoidal harmonics と呼ばれる。*9

放物面座標系

この座標系については、Laplace 方程式を変数分離した場合に Mathieu 方程式に帰着する。

まとめと今後の展望

11種類の直交座標系について雑な紹介をした。円錐座標や共焦点楕円体座標系については近日中により詳しい記事を書く予定である。この記事は Lame 微分方程式Lame 関数に関する記事に繋がっていく予定である。
また数理物理的なモチヴェーションでもある、Helmholtz・Laplace 方程式の変数分離可能性、超可積分系に関する記事についても書いていきたい。

水素様原子のエネルギースペクトル解法(その9)〜 回転楕円体座標による変数分離解 〜

数回に分けて、水素様原子に対する(非相対論的)束縛状態エネルギースペクトル
 {\displaystyle
E_n = - \frac{1}{2n^2}\frac{m_e}{\hbar^2}\left(\frac{Ze^2}{4\pi\epsilon_0} \right)^2
}
を求めるための9通りの解法を紹介する予定である。

  1. E. Schrödingerによる波動方程式解法(ラゲール陪多項式を用いる)
  2. W. Pauliによるso(4)代数を用いる解法
  3. su(1,1)代数を用いた解法
  4. 因数分解を用いた解法
  5. V. Fockによる運動量表示を用いた解法
  6. E. Schrödinger、P. S. Epstein、I. Wallerらによる波動方程式解法(放物線座標表示の解)
  7. Kustaanheimo-Stiefel 変換を用いた解法
  8. 経路積分を用いる方法
  9. 回転楕円体座標による変数分離を用いる方法

今回紹介する方法は回転楕円体座標表示の解法である。
量子論における回転楕円座標の利用というものは実は古く、例えば前期量子論(Bohr-Sommerfeldの量子化条件)の範疇であるがPauli (1922)が水素分子カチオンに関する研究*1で用いている。
すなわちSchrödingerやHeisenbergによる量子力学の定式化よりも古い。
水素分子イオンの量子論は一般的には等核二中心問題と呼ぶことができる。
これらの問題についてはSchrödinger方程式を考えることでTeller(1930), Hylleraas(1931)によって答えが示された。
本手法を水素原子に適用した試みはPauliよりは時代が降り、Coulson and Joseph (1958)とのことである。
この段階では超幾何関数を用いて解を書き下すことができた。
その後も解の性質について近年でも研究が行われている。
例えば、Sung, S. M., & Herschbach, D. R. (1991)Kereselidze, T., Chkadua, G., Defrance, P., & Ogilvie, J. F. (2016)
などがある。
特に最近の研究Kereselidze, T., Chkadua, G., Defrance, P., & Ogilvie, J. F. (2016)
では、合流型Heun微分方程式を用いて書き下すことをしている。

回転楕円座標系を用いる意義はどこにあるだろうか。
そもそも回転楕円座標系というものは球座標と放物線の狭間にある座標系である。
回転楕円座標系は二つの焦点(一方は原点)を元に定義されるが、焦点間の距離を {R>0} として {R\rightarrow +0} の極限は球座標に相当し、{R\rightarrow\infty} の極限は放物線座標に相当するのである。
球座標表示は角運動量を保存する表示である。
したがって、角運動量ベクトルの働きが良く見える。
一方、放物線座標表示はLaplace-Runge-Lenzベクトルと角運動量ベクトルの軸方向を保存する表示である。
球座標表示はLRLベクトルの働きが見えにくい(古典力学では円軌道を通るときのLRLベクトルは大きさが0になる。)が放物線座標表示ではLRLベクトルの役割を見ることができる。
このことから、回転楕円体座標では球座標と放物線座標の両者の性質を残していると考えられる。

ノートの構成は次のようになっている。

  1. 問題設定
  2. 回転楕円体座標の導入
  3. ラプラシアンの回転楕円体座標表示
  4. Schrödinger方程式変数分離の実行
  5. 合流型 Heun の微分方程式
  6. エネルギーの縮重度

以下にノートを貼り付ける。

まとめと今後の展望

Schrödingerを回転楕円体座標による変数分離によって解く方法を紹介した。
本方法では変数分離の結果、擬動径座標と擬角度座標に関する微分方程式が得られる。
これら二つの方程式は同一の形をとり、合流型 Heun の微分方程式に帰着する。
この方程式を解くことでエネルギーや波動関数や縮重度を求めることができたのである。

今後は他の解法との関係性(変換)についてまとめておきたいと考えている。

リファレンス

関連記事

*1:1921年に同研究で博士号を受けている。これらの研究に関しては前期量子論の失速に繋がったとも言われる

【一般次元】クーロンポテンシャルと等方調和振動子ポテンシャルの関係性(その1)

以前の記事で、非相対論的水素原子のSchrödinger方程式をKustaanheimo-Stiefel(KS)変換によって四次元空間中の等方調和振動子のSchrödinger方程式に変換できることについて紹介した。

adhara.hatenadiary.jp
adhara.hatenadiary.jp
adhara.hatenadiary.jp

この様な変換が一般次元において生じるかどうか、というのは興味深い問題である。
本記事では球座標を用いた変数分離解を眺めることにより、一般次元である種の対応関係が成立することを紹介する。

なお、今回紹介する関係性は古典力学においても同様のものが成立する。
その場合はHamilton-Jacobi方程式を考える。

はじめに

球座標を用いた変数分離解を眺めることにより、一般次元で対応関係が成立することを示す。

ノート

ノートの構成は

  1. イントロ
  2. 球座標変数分離を用いた解法
  3. 考察

となっている。
以下にノートを貼り付ける


まとめと今後の展望

一般次元においてクーロンポテンシャルと等方調和振動子ポテンシャルのSchrödinger方程式を結びつける関係性があることを示した。
KS変換あるいはその拡張であるHurwitz変換と今回の対応関係の違いについては、議論を深めたいと考えている。

Copyright © 2017 ブログ名 All rights reserved.