水素様原子のエネルギースペクトル解法(その2)〜 so(4)代数を用いる解法 〜
数回に分けて、水素様原子に対する(非相対論的)束縛状態エネルギースペクトル
を求めるための8通りの解法を紹介する予定である。
- E. Schrödingerによる波動方程式解法(ラゲール陪多項式を用いる)
- W. Pauliによるso(4)代数を用いる解法
- su(1,1)代数を用いた解法
- 因数分解を用いた解法
- V. Fockによる運動量表示を用いた解法
- E. Schrödinger、P. S. Epstein、I. Wallerらによる波動方程式解法(放物線座標表示の解)
- Kustaanheimo-Stiefel 変換を用いた解法
- 経路積分を用いる方法
本記事では、その2のPauliによるso(4)代数を用いる解法を紹介する。
規格化したLRLベクトルと角運動量ベクトルの各成分を基底としたso(4)代数構造に着目して、問題を解く試みである。so(4)代数の特徴はsu(2)代数の直和に分解できることであり、ほぼsu(2)代数の知識で解けてしまうところに手法の簡便さがある。
本手法の創設は、W. Pauli, Z. Physik. 36 (1926) 336. であり、手法の解釈について、V. Fock, Z. Physik. 98 (1935) 145. やV. Bargmann, Z. Physik. 99 (1936) 576. らの貢献がある。
この記事を書くにあたり、Schiffの本やウィキペディア、そして国場敦夫の日本語記事を大いに参考にしたので特筆しておく。
また、準備記事として、その1、その2、その3をすでに書いている。
記事の構成は以下のようになっている。
- 問題設定
- 準備
- so(4)代数の導入
- so(4)代数を用いた解法
so(4)代数を使った水素様原子エネルギースペクトルの解法.pdf - Google ドライブ
まとめ
so(4)代数を利用した水素様原子のエネルギースペクトル解法を紹介した。
この手法を通じて水素原子におけるエネルギー縮退の理由が、球対称性を超えた高度な対称性の存在が垣間見られる。
今後、su(1,1)代数を用いた解法や因数分解を用いた解法等の他手法と合わせて再解釈を行い、より高度な代数構造に迫る記事を書く予定である。
リファレンス
Pauliの元論文
- Pauli Jr, W. (1926). Über das Wasserstoffspektrum vom Standpunkt der neuen Quantenmechanik. Zeitschrift für Physik, 36(5), 336-363./pdfはこちら
その他
- Laplace–Runge–Lenz vector - Wikipedia
- L. I. Schiff: "Quantum Mechanics" 3rd edition (1968), McGraw-Hill, INC. Amazon | Quantum Mechanics (Pure & Applied Physics) | Schiff, L. I. | Quantum Theory
- Robert Gilmore, "Lie Groups, Physics, and Geometry: An Introduction for Physicists, Engineers and Chemists" (2008) Amazon | Lie Groups, Physics, and Geometry: An Introduction for Physicists, Engineers and Chemists | Gilmore, Robert | Mathematical Physics
- Robert Gilmore, "Lie Groups, Lie Algebras, and Some of Their Applications (Dover Books on Mathematics) " Amazon | Lie Groups, Lie Algebras, and Some of Their Applications (Dover Books on Mathematics) | Gilmore, Robert | Algebra
- B. G. Wybourne, "Continuous Symmeties in Physics" http://www.fizyka.umk.pl/~bgw/symc.pdf
- B. G. Wybourne, "Classical Groups for Physicists" (Wiley, New York, 1974). Amazon | Classical Groups for Physicists | Wybourne, Brian G. | Algebra
- https://archive.org/details/QuantumMechanics_104
- 国場敦夫: CiNii 論文 - ラプラス-ルンゲ-レンツベクトル--Gruppen Pestの始祖的例題 (特集 代数的物理観--現代物理はいかに表現されているか) 数理科学 45(7), 50-55, 2007-07 サイエンス社
- m-a-oさんのブログ水素原子の表現論
- 立川さんの講義ノートhttp://member.ipmu.jp/yuji.tachikawa/lectures/2015-qm2