SU(2)群とsu(2)代数の表現論(その3)〜 ボソン演算子の導入 〜

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ではSU(2)群の既約ユニタリ表現を紹介した。
そこでは複素係数二変数斉次多項式空間がSU(2)の表現により既約分解されること、各次数の部分空間が既約部分空間なっていること、がわかった。

本記事は各部分空間を結びつける演算子ボソン演算子を導入することを目的としている。
このようなボソン演算子を導入することは、Jordan-Schwingerのbosonaization(ボソン化)と呼ばれる。
ボソン演算子の成す代数は一般にHeisenberg代数と呼ばれる。

記事の構成は以下のようになっている。

  1. SU(2)群の既約ユニタリ表現に関するおさらい
  2. ボソン演算子の構成

本記事を書くにあたり、B. G. Wybourne, "Continuous Symmeties in Physics"を主に参考にした。

SU(2) 群とsu(2) 代数の表現論(その3).pdf - Google ドライブ


まとめ

本記事では、二つのボソン生成演算子を用いることでSU(2)のユニタリ表現を表わせること、を紹介した。
ボソン生成演算子の実態は、(例えば)多項式中の変数であるz1とz2のことである。
すべてのユニタリ表現が生成演算子により表示できるのは、定数関数に変数z1やz2を掛け算して線形結合をとって行くと各次数の斉次多項式を生成できる、という多項式環的には当たり前の事実に対応している。

二次元調和振動子との関係性についても触れておこう。
二次元の調和振動子の問題も同様にボソン演算子二つを用いて考えることができる。
(むしろボソン演算子が出てくる例で思いつきやすいのはこちらかもしれない。)
二次元調和振動子とSU(2)のユニタリ表現には似た代数構造が仕込まれているということである。

今後の展望

今回導入したようなボソン生成演算子を用いたSU(2)のユニタリ表現の応用例として、水素原子の全束縛状態の表現がある。
これについて取り扱う記事を準備している。

一方、水素の束縛状態を生成演算子により構成する過程で、リー群SO(4,2)が登場することが「発見」できる。
この群は力学的群(dynamical group)と呼ばれ、力学的対称性(dynamical symmetry)を記述する群SO(4)では記述できなかった、各エネルギー状態間の状態遷移を記述する演算子を対応するリー代数の元として自然に含むリー群である。
こちらについても記事を準備している。

もう一つ興味深い数理物理的構造として、水素原子と四次元調和振動子の対応関係がある。
水素原子も四次元の調和振動子もその束縛状態を四種類のボソン生成演算子を用いて表示できる。
この関係性に着目して水素原子の問題を四次元の調和振動子の問題に置き換えることができる。
この置き換えの数学的手続きをKustaanheimo-Stiefel変換と呼ぶが、この変換は水素原子の問題を経路積分で解く際に用いられたり、一般コヒーレント状態という量子状態を構成するのに用いられたりする。
このあたりの話題も多くの数学的準備の記事と合わせて、書いていきたいと考えている。

SO(4)群とso(4)代数の表現論(その3)〜 WignerのD行列を用いた四次元球面調和関数の表示 〜

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では同じ次数の四次元球面調和関数がなす空間がSO(4)の表現空間としては既約であることをリー代数を用いて示した。

高次元の球面調和関数については
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でも議論しており、高次元球面上の自乗可積分関数が対応する次元の球面調和関数で展開できることを述べている。(フーリエ展開の拡張に相当する)

さらに
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では球面調和関数の一種である帯球関数をGegenbauer多項式を用いて表している。

本記事ではアプローチを変えて、
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で導入したWignerのD行列を用いて正規直交基底をなす四次元球面調和関数を構成する、ということを行う。
WignerのD行列はSU(2)の既約ユニタリ表現の行列表示であるが、これを{\textstyle S^3}上の関数と見なすとSchurの直交性から各行列要素が直交することが示される。
各行列要素は既約表現関数あるいは単純表現関数と呼ばれ、これらの線形結合がなす関数全体(同じ既約表現に属する球面調和関数全体である)は表現関数と呼ばれる。

本記事は以下の構成になっている。

  1. コンパクト位相群におけるSchurの直交性
  2. SU(2)とWignerのD行列に関すること
  3. WignerのD行列の各成分が四次元球面調和関数になっており各成分が直交すること

本記事を書くにあたりM. Bander and C. Itzyksonの論文トロント大学講義ノート(Fiona Murnaghaさん)を参考にした。(コンパクト位相群については後者、WignerのD行列から正規直交する四次元球面調和関数を構成するところは前者を参考にした。)

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今後の展望

テンソル積を用いた表現との関係はいずれ議論したい。
今回紹介した結果の背後にあるPeter-Weyl定理についてもいずれ触れたい。
位相群に関する事項もいずれまとめる。

群の表現論(その2)〜 Schurの補題と有限群に対するSchurの直交性 〜

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で群の表現論に関する定義といくつかの定理を紹介した。
有限次元表現ユニタリ表現が完全可約(半単純)であるというところまで書いている。

本記事では既約表現に関する重要な定理である、Schurの補題と有限群の有限次元表現に対して成立するSchurの直交性を紹介する。
Schurの直交性は大直交定理とも呼ばれ、既約表現の指標表を作成したりする際に便利である。
指標表は分子や結晶の対称性を調べるときに役立つものである。

本記事の構成はトロント大学の講義ノート(Fiona Murnaghaさん)を参考にしたが、論理を補強するために環上の加群に関する本を参考にした。

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今後の展望

実はシューアの直交性に相当するものが、コンパクト位相群の有限次元表現についても成立する。
続編としてはコンパクト位相群自体に関する記事、およびコンパクト位相群に対する表現論に関する記事を予定している。

SU(2)群とsu(2)代数の表現論(その2)〜 有限次元既約ユニタリ表現とWignerのD行列 〜

本記事ではコンパクトリー群の中でもSU(2)群についての有限次元既約ユニタリ表現(unitary irreducible representations)について紹介する。
SU(2)群の既約ユニタリ表現は球面調和関数やスピンを考えるうえで重要である。

本記事の構成は以下のようになっている。

  1. 有限次元表現の導入
  2. ユニタリ性を持つ内積の導入
  3. 既約表現であることの証明
  4. WignerのD行列

ノートを添付する。
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今後の展望

ウィグナーのD行列を使って、SO(4)群の表現論を論じる。

群の表現論(その1)〜 定義や幾つかの事項 〜

本記事では群の表現の定義や表現論の定理の幾つかを紹介する。
表現論の中でもよく用いられるSchurの補題(とその逆)を説明する上での準備という意味合いがある。
本記事の議論は有限群には限定していない(とくにコンパクトリー群への応用を考えているので)。

記事の構成は

  1. 群の表現の定義と幾つかの定理
  2. ユニタリ表現と幾つかの定理

となっている。
本記事の構成はトロント大学の講義ノート(Fiona Murnaghaさん)を参考にしたが、論理を補強するために環上の加群に関する本を参考にした。
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今後の展望

Schurの補題やコンパクト群に関する表現論については第二弾記事で扱う。

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