水素様原子のエネルギースペクトル解法(その6)〜 E. Schrödinger、P. S. Epstein、I. Wallerらによる放物線座標による変数分離解 〜

数回に分けて、水素様原子に対する(非相対論的)束縛状態エネルギースペクトル
 {\displaystyle
E_n = - \frac{1}{2n^2}\frac{m_e}{\hbar^2}\left(\frac{Ze^2}{4\pi\epsilon_0} \right)^2
}
を求めるための8通りの解法を紹介する予定である。

  1. E. Schrödingerによる波動方程式解法(ラゲール陪多項式を用いる)
  2. W. Pauliによるso(4)代数を用いる解法
  3. su(1,1)代数を用いた解法
  4. 因数分解を用いた解法
  5. V. Fockによる運動量表示を用いた解法
  6. E. Schrödinger、P. S. Epstein、I. Wallerらによる波動方程式解法(放物線座標表示の解)
  7. Kustaanheimo-Stiefel 変換を用いた解法
  8. 経路積分を用いる方法

今回紹介する方法は方法は放物線座標表示の解法である。
最も良く知られておりDFTなどの応用上も有用な1つめの方法では、球座標表示の解を求めている。
その際に動径方向にラゲール陪多項式が出てくる。
放物線座標表示でもラゲール陪多項式が用いられるが、二つのラゲール陪多項式の積が出てくる。
本方法はE. Schrödinger、P. S. Epstein、I. Wallerらによって独立に論じられたようである。
Schrödingerについては1926年に発表された量子力学に関する四部作(この業績によりシュレディンガー方程式の名を残している)のうち三作目(pdf)で放物線座標について出てくる。

放物線座標表示はLRLベクトルとの相性がよく、SO(4)対称性を理解する上で重要である。
水素様原子の放物線座標による変数分離解法.pdf - Google ドライブ


まとめ

BargmannはSO(4)対称性による水素原子の量子状態の理解を進めたが、その際放物線座標表示との関係を議論している。
次の記事では、放物線座標表示を利用したSO(4)対称性の理解についてまとめる。

水素様原子スペクトルに関するBargmannの議論(その1)〜 PauliとFockの解法の関係 〜

水素様原子はハミルトニアンの持つ空間対称性SO(3)を超えた対称性SO(4)を持つことが知られている。
この対称性は力学的対称性と呼ばれる。(シッフの教科書 を参照)
力学的対称性を利用した解法としてはPauliの解法
adhara.hatenadiary.jp

とFockの解法
adhara.hatenadiary.jp

が有名である。
Pauliの解法ではLaplace-Runge-Lenzベクトルというクーロンポテンシャル特有の保存量が角運動量ベクトルとともにso(4)代数を構成することを利用していた。
一方で、Fockの解法では方程式の変換により超球面上のラプラシアンLaplace-Beltrami演算子)の固有値問題に帰着することを利用していた。

本記事では両者の解法の関係についてのBargmannの議論を紹介する。
すなわち、Fockの解法からLRLベクトルが導出できることを示す。
水素様原子スペクトルに関するバーグマンの議論.pdf - Google ドライブ


まとめ

Fockの解法からLRLベクトルが導出できることを示すという形でPauliとFockの解法の関係性を議論した。
要するにLRLベクトル(ただし規格化したものだが)は、角運動量ベクトルと共に4次元空間の回転生成を担うのである。
この記事の続きとしては、Bargmannの議論の続き、すなわち異なる座標系でシュレディンガー方程式が分離できることについて紹介する。
すなわち、高度な縮退は二種類の座標系で分離できる事実に由来することについて議論する。

リファレンス

この記事を書くにあたり参照する論文

【図解】水素様原子のエネルギースペクトル解法(Fockの解法)について

本記事では、Fockの水素様原子に対するエネルギースペクトル解法(Pauliの方法)の図解を行う。
上記解法の詳細については以前の記事、
adhara.hatenadiary.jp
を参照して欲しい。
D次元の水素様原子のエネルギースペクトルが
 {\textstyle n \ge 0}として
 {\displaystyle
E_n = E = - \frac{1}{2} \frac{1}{\left(\frac{2n+D-1}{2}\right)^2} \frac{m_e}{\hbar^2} \left(\frac{Ze^2}{4\pi\epsilon_0} \right)^2
}
であり、縮重度は
 {\displaystyle
{}_{n+D} C_n - {}_{n+D-2} C_{n-2} 
}
となることを示していた。

ただし今回のノート(スライド)は積分形式の固有値方程式を解く段階で、違ったやり方、即ち帯球関数の再生核としての性質を用いている。
この方法では束縛状態の固有値が求めたものに限られることをスッキリ説明できる。
以前の記事では積分路を工夫して解を求めていた。

前半はフーリエ変換立体射影によるシュレディンガー方程式の変形の概略、後半はグリーン関数、再生核、帯球関数の概念を利用した固有方程式解法の概略を示している。

【考察/解釈】Fockの解法.pdf - Google ドライブ


まとめと今後の展望

本記事では、Fockが提示した水素様原子に対するエネルギースペクトル解法の図解を行った。
今回出てきた帯球関数、再生核、ゲーゲンバウアー多項式については別の記事で詳しく扱う。

リファレンス

物理

数学

超球面上の球面調和関数(その2)〜 帯球関数とゲーゲンバウアー多項式 〜

本記事では球面調和関数を具体的に表すための特殊関数であるGegenbauer(ゲーゲンバウアー)多項式について説明する。
Gegenbauer多項式は球面調和関数のうち、{\textstyle  SO(D) } の固定部分群によって固定される特別な関数である帯球関数(Zonal Spherical Function)を具体的に表すために用いられる。

以前の記事、

adhara.hatenadiary.jp
adhara.hatenadiary.jp

では超球面上のLaplacian(Laplace-Beltrami演算子)の固有関数としての球面調和関数を紹介していた。
すなわち、D次元空間中の超球面 {\textstyle  S^{D-1}} においては、

{\displaystyle
\Delta_{S^{D-1}} Y_{n\alpha} = -n(n+D-2) Y_{n\alpha}
}

が成立し、球面調和関数 {\textstyle Y_{n\alpha} }Laplace-Beltrami演算子の固有関数となっていることを(特段の理論背景なしに)書いていた。
さらに、k次の球面調和関数がなす部分関数空間の次元が
 {\displaystyle
{}_{D+k-1} C_{D-1} -  {}_{D+k-3} C_{D-1}
}
となることも書いていた。

本記事は以下の構成になっている。

  1. Laplace-Beltrami演算子
  2. SO(D)の作用(表現論のさわり)
  3. 球面調和関数と帯球関数
  4. ゲーゲンバウアー多項式

極座標・回転群・SL(2,R) - 九州大学大学院数理学研究院というノートを主に参考にした。
単位超球面上の帯球関数とGegenbauer 多項式.pdf - Google ドライブ


まとめと今後の展望

本記事では帯球関数がGegenbauer(ゲーゲンバウアー)多項式によって書かれることを示した。

今回の記事の続編としてはSO(D)群の表現論を展開したいと考えている。(表現論のさわりは書いたつもりだが)

ゲーゲンバウア–多項式自体の性質については他の記事でも紹介して行こうと考えている。(積分表示、漸化式、ロドリゲスの公式等)
またゲーゲンバウアー多項式を含む特殊関数の一大カテゴリーである超幾何多項式についても取り扱いたい。

ケプラー問題と力学的対称性(その4)~ 特別な正準座標系で眺めると 〜

いくつかの記事を使って古典力学における力学的対称性について論じるつもりである。

第三弾の記事までで、ケプラー問題における束縛状態について、運動の第一積分たちをもちいることで{\textstyle so(4)}代数を構成できることを見てきた。

本記事は、ケプラー問題の束縛状態における位相空間中の特異な挙動を特別な正準座標系から眺めることで考察する。
この記事における議論は、力学的対称性に関する教育的な論文である O’Connell, Ross Cらの論文 がベースとなっている。
本議論の特徴は、1)二次元ケプラー問題を考えていることと、2)ケプラー問題を眺めるのに適した正準変換を導入していること、の二点である。

本記事の構成は、

  1. はじめに
  2. ケプラー問題の二次元化
  3. 二次元版ケプラー問題の第一積分
  4. 特別な正準座標系で見ると

となっている。
ケプラー問題と力学的対称性(その4) - Google ドライブ


まとめと今後の展望

今回導入した正準座標系で位相空間中の運動を眺めると、運動の軌跡はQ軸に沿った直線となり保存量に相当する方向であるH,L,αの各軸とは直交することが分かる。
しかもdQ/dt=1であることから、Qの変化量は時間の変化量そのものであり、等速直線運動に見えるはずである。

今回導入したような性質をもつ正準座標系を取ることは一般には不可能である。
そもそも第一積分が十分な数(正準変数の数引く1)だけ存在しなければ取りようが無いからである。
このような系は極大超可積分系(Maximally superintegrable systems)と呼ばれる。
ケプラー問題はその一例であり、今回示した位相空間の見方すなわち特別な正準変換の存在は極大超可積分系の性質の一つである。
今回の記事は極大超可積分系を議論するにあたり基礎となるであろう。

次の記事ではケプラー問題の束縛状態が閉軌道であることに関して焦点を当てる予定である。

Copyright © 2017 ブログ名 All rights reserved.